36.2. Zend_XmlRpc_Client

36.2.1. 導入

Zend Framework では、クライアントとしてリモートの XML-RPC サービスを使用することもサポートしています。そのためには Zend_XmlRpc_Client パッケージを使用します。 主な機能には、PHP と XML-RPC の間の型変換やサーバのプロキシオブジェクト、 そしてサーバが提供する機能を調べることなどがあります。

36.2.2. メソッドのコール

Zend_XmlRpc_Client のコンストラクタは、 リモート XML-RPC サーバの URL を最初の引数として受け取ります。 返されたインスタンスを使用して、 その場所からさまざまなリモートメソッドを実行します。

リモートメソッドを XML-RPC クライアントからコールするには、 インスタンスを作成した後で call() メソッドをコールします。 以下の例では Zend Framework のウェブサイト上にあるデモ用の XML-RPC サーバを使用します。Zend_XmlRpc のテストや調査のために、このサーバを使用することができます。

例 36.1. XML-RPC メソッドのコール

<?php

require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://framework.zend.com/xmlrpc');

echo $client->call('test.sayHello'); 

// hello

?>

リモートメソッドのコールによって返される XML-RPC の値は、 自動的に PHP のネイティブ型に変換されます。 上の例では PHP の string が返されるので、 それをそのまま使用することができます。

call() メソッドの最初のパラメータは、 コールするリモートメソッドの名前です。 そのリモートメソッドが何らかのパラメータを要求する場合は、それを call() の二番目のオプションのパラメータで指定します。 このパラメータには、リモートメソッドに渡す値を配列で指定します。

例 36.2. パラメータを指定した XML-RPC メソッドのコール

<?php

require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://framework.zend.com/xmlrpc');

$arg1 = 1.1;
$arg2 = 'foo';

$result = $client->call('test.sayHello', array($arg1, $arg2)); 

// $result はネイティブな PHP の型になります

?>

リモートメソッドがパラメータを要求していない場合は、 このパラメータには何も指定しません。あるいは空の array() を渡します。リモートメソッドに渡すパラメータの配列には、 ネイティブの PHP 型と Zend_XmlRpc_Value オブジェクトの両方を使用できます。それらを混用することも可能です。

call() メソッドは自動的に XML-RPC のレスポンスを変換し、 同等な PHP ネイティブ型にして返します。返り値を Zend_XmlRpc_Response オブジェクトとして取得するには、 このメソッドの後で getLastResponse() をコールします。

36.2.3. 型およびその変換

リモートメソッドの中にはパラメータが必要なものがあります。 必要なパラメータは、Zend_XmlRpc_Clientcall() メソッドの二番目のパラメータとして配列で指定します。 パラメータを渡す方法は 2 通りあります。PHP のネイティブ型 (これは自動的に変換されます) で渡すか、 対応する XML-RPC 型 (Zend_XmlRpc_Value オブジェクトのひとつ) で渡すかのいずれかです。

36.2.3.1. PHP ネイティブ変数をパラメータとして渡す

call() のパラメータをネイティブの PHP 型で渡します。つまり stringintegerfloatbooleanarray あるいは object で渡すということです。 このとき、PHP のネイティブ型は自動的に検出され、 以下の表にしたがって XML-RPC 型に変換されます。

表 36.1. PHP と XML-RPC の間の型変換

PHP ネイティブ型 XML-RPC 型
integer int
double double
boolean boolean
string string
array array
associative array struct
object array

36.2.3.2. Zend_XmlRpc_Value オブジェクトをパラメータとして渡す

パラメータを表す Zend_XmlRpc_Value のインスタンスを作成し、XML-RPC の型を指定することもできます。 このようにする理由には次のようなものがあります。

  • プロシージャに正しい型で渡されることを確実にしたいことがある (例えば、integer を要求しているプロシージャに対して データベースから取得した文字列を渡したい場合など)。

  • プロシージャが base64 型や dateTime.iso8601 型を要求していることがある (これらは PHP のネイティブ型には存在しません)。

  • 自動変換が失敗する場合 (例えば、空の XML-RPC 構造体をパラメータとして渡すことを考えましょう。 これは、PHP では空の配列に対応します。しかし、 空の配列をパラメータとして渡すと、それが自動変換されたときに XML-RPC の array になってしまいます。なぜなら、 空の配列は連想配列ではないからです)。

Zend_XmlRpc_Value オブジェクトを作成する方法は 二通りあります。Zend_XmlRpc_Value のサブクラスのインスタンスを直接作成するか、 あるいは静的ファクトリメソッド Zend_XmlRpc_Value::getXmlRpcValue() を使用します。

表 36.2. Zend_XmlRpc_Value オブジェクトと対応する XML-RPC 型

XML-RPC 型 対応する Zend_XmlRpc_Value 定数 Zend_XmlRpc_Value オブジェクト
int Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_INTEGER Zend_XmlRpc_Value_Integer
double Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_DOUBLE Zend_XmlRpc_Value_Double
boolean Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_BOOLEAN Zend_XmlRpc_Value_Boolean
string Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_STRING Zend_XmlRpc_Value_String
base64 Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_BASE64 Zend_XmlRpc_Value_Base64
dateTime.iso8601 Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_DATETIME Zend_XmlRpc_Value_DateTime
array Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_ARRAY Zend_XmlRpc_Value_Array
struct Zend_XmlRpc_Value::XMLRPC_TYPE_STRUCT Zend_XmlRpc_Value_Struct

[注意] 自動変換

新しい Zend_XmlRpc_Value オブジェクトを作成する際には、 その値は PHP の型として設定されます。この PHP の型は、 PHP のキャスト機能によって変換されます。 たとえば、Zend_XmlRpc_Value_Integer に文字列を渡すと、(int)$value のように変換されます。

36.2.4. サーバプロキシオブジェクト

リモートメソッドを XML-RPC クライアントからコールするもうひとつの方法は、 サーバプロキシを使用することです。 サーバプロキシとはリモートの XML-RPC 名前空間のプロキシとなる PHP オブジェクトで、ネイティブな PHP オブジェクトと可能な限り同じように扱えるようにしたものです。

サーバプロキシのインスタンスを作成するには、 Zend_XmlRpc_Client のインスタンスメソッド getProxy() をコールします。これは Zend_XmlRpc_Client_ServerProxy のインスタンスを返します。 サーバプロキシに対するあらゆるメソッドコールはリモートに転送され、 パラメータも通常の PHP メソッドと同じように渡すことができます。

例 36.3. デフォルト名前空間のプロキシ

<?php

require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://framework.zend.com/xmlrpc');

$server = $client->getProxy();           // デフォルトの名前空間のプロキシを作成します

$hello = $server->test->sayHello(1, 2);  // test.Hello(1, 2) は "hello" を返します

?>
            

getProxy() のオプションの引数で、 リモートサーバのどの名前空間をプロキシするかを指定することができます。 名前空間を指定しなかった場合は、デフォルトの名前空間をプロキシします。 次の例では、test 名前空間がプロキシの対象となります。

例 36.4. 任意の名前空間のプロキシ

<?php

require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://framework.zend.com/xmlrpc');

$test  = $client->getProxy('test');     // "test" 名前空間のプロキシを作成します

$hello = $test->sayHello(1, 2);         // test.Hello(1,2) は "hello" を返します

?>

リモートサーバが入れ子状の名前空間をサポートしている場合は、 サーバプロキシでもそれを使用することができます。たとえば、 上の例のサーバがメソッド test.foo.bar() を保持している場合は、$test->foo->bar() のようにコールします。

36.2.5. エラー処理

XML-RPC のメソッドコールで発生する可能性のあるエラーには、二種類あります。 HTTP のエラーと XML-RPC の fault です。Zend_XmlRpc_Client はこれらの両方を理解するので、それぞれ独立して検出と処理が可能です。

36.2.5.1. HTTP エラー

HTTP エラーが発生した場合、 つまり、たとえばリモート HTTP サーバが 404 Not Found を返したような場合に Zend_XmlRpc_Client_HttpException がスローされます。

例 36.5. HTTP エラーの処理

<?php

require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://foo/404');

try {

    $client->call('bar', array($arg1, $arg2));

} catch (Zend_XmlRpc_HttpException $e) {
    
    // $e->getCode() は 404 を返します
    // $e->getMessage() は "Not Found" を返します
    
}

?>

XML-RPC クライアントの使用法にかかわらず、HTTP エラーが発生すると必ず Zend_XmlRpc_Client_HttpException がスローされます。

36.2.5.2. XML-RPC Fault

XML-RPC の fault は、PHP の例外と似たものです。これは XML-RPC メソッドのコールから返される特別な型で、 エラーコードとエラーメッセージを含みます。XML-RPC の fault は、Zend_XmlRpc_Client の使用場面によって処理方法が異なります。

call() メソッドや サーバプロキシオブジェクトを使用している場合には、 XML-RPC の fault が発生すると Zend_XmlRpc_Client_FaultException がスローされます。 この例外のコードとメッセージは、もとの XML-RPC の fault レスポンスの値に対応するものとなります。

例 36.6. XML-RPC Fault の処理

<?php
                                
require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://framework.zend.com/xmlrpc');

try {

    $client->call('badMethod');

} catch (Zend_XmlRpc_FaultException $e) {
    
    // $e->getCode() は 1 を返します
    // $e->getMessage() は "Unknown method" を返します
    
}

?>

call() メソッドを使用してリクエストを作成した場合は、 fault の際に Zend_XmlRpc_FaultException がスローされます。fault を含む Zend_XmlRpc_Response オブジェクトを取得するには getLastResponse() をコールします。

doRequest() メソッドでリクエストを作成した場合は、 例外はスローされません。そのかわりに、falut を含む Zend_XmlRpc_Response オブジェクトを返します。 これを調べるには、 Zend_XmlRpc_Response のインスタンスメソッド isFault() を使用します。

36.2.6. サーバのイントロスペクション

XML-RPC サーバの中には、XML-RPC の system. 名前空間で デファクトのイントロスペクションメソッドをサポートしているものもあります。 Zend_XmlRpc_Client は、この機能を持つサーバもサポートしています。

Zend_XmlRpcClientgetIntrospector() メソッドをコールすると、 Zend_XmlRpc_Client_ServerIntrospection のインスタンスを取得できます。 これを使用してサーバのイントロスペクションを行います。

36.2.7. リクエストからレスポンスへ

Zend_XmlRpc_Client のインスタンスメソッド call() 中で行われていることは、 まずリクエストオブジェクト (Zend_XmlRpc_Request) を作成し、 それを別のメソッド doRequest() で送信し、 その結果返されるレスポンスオブジェクト (Zend_XmlRpc_Response) を取得するということです。

doRequest() メソッドは、それ単体で直接使用することもできます。

例 36.7. リクエストからレスポンスへの処理

<?php
                                
require_once 'Zend/XmlRpc/Client.php';

$client = new Zend_XmlRpc_Client('http://framework.zend.com/xmlrpc');

$request = new Zend_XmlRpc_Request();
$request->setMethod('test.sayHello');
$request->setParams(array('foo', 'bar'));

$client->doRequest($request);

// $server->getLastRequest() は Zend_XmlRpc_Request のインスタンスを返します
// $server->getLastResponse() は Zend_XmlRpc_Response のインスタンスを返します

?>

クライアントから XML-RPC メソッドのコールが (call() メソッド、 doRequest() メソッドあるいはサーバプロキシによって) 行われた場合は、最後のリクエストオブジェクトおよびその応答が常に getLastRequest() および getLastResponse() で取得できます。

36.2.8. HTTP クライアントのテスト

これまでのすべての例では、HTTP クライアントの設定を行いませんでした。 このような場合、Zend_Http_Client の新しいインスタンスがデフォルトのオプションで作成され、それを自動的に Zend_XmlRpc_Client で使用します。

HTTP クライアントは、いつでも getHttpClient() メソッドで取得できます。 たいていの場合はデフォルトの HTTP クライアントで用が足りるでしょう。 しかし、setHttpClient() を使用することで、 別の HTTP クライアントのインスタンスを使うこともできます。

setHttpClient() は、特に単体テストの際に有用です。 Zend_Http_Client_Adapter_Test と組み合わせることで、 テスト用のリモートサービスのモックを作成することができます。 この方法を調べるには、Zend_XmlRpc_Client 自体の単体テストを参照ください。